指タッピング課題を用いた二者間もしくは三者間の時間的共創過程の解明
音楽のアンサンブルやスポーツ,会話に見られるように,人は他者と一緒にリズミカルに運動を生成しています.しかしながら,光と音の速さの違いや,視覚情報と聴覚情報が脳神経系で処理される速さの違い,感覚入力から運動応答までの時間遅れなど,そこには多くの時間遅れが発生しています.このような複雑な過程を他者を含む環境との時間的共創と呼び,その基本的特徴とメカニズムの解明を進めています.
具体的には,心理学的行動実験と情報処理理論を用いた人間の内部メカニズムのモデル化を行っています.行動実験として,指タッピング課題を用いた他者とのリズム生成実験を行っています.これにより,他者と視覚もしくは聴覚情報を用いてリズム生成を行った時の違い,一定テンポのメトロノームとのリズム生成と他者とのリズム生成の違い等を明らかにしてきました.また,他者との共創的リズム生成を支える内部メカニズムのモデル化を進め,人間同士では相手に合わせるというメカニズムに加えて,相手にあえて合わせないというメカニズムが必要であることがわかってきました.
能動的運動が起こす人間の時間知覚の変容
二者間リズム生成実験人間は環境から受動的に情報を得ているだけではなく,能動的,随意的に環境へ働きかける中で環境の情報を得ています.受動的に環境の情報を受け取る時と,能動的に運動しているときとでは,人間が環境を知覚する方法が異なることが知られています.
そこで,能動運動中に人間の時間知覚がどのように変容するかを研究しています.具体的には,わずかな時間差で提示される聴覚情報と体性感覚情報のどちらが先に提示されたかを答える,時間順序判断課題を用いています.これを,自ら人差し指を動かしている時,機械によって人差し指を動かされるとき,運動していない時に行い,時間順序判断課題がどのように変わるかを調べています.運動をしていない時,機械によって指が動かされるときは,体性感覚刺激が早く提示されたときに人間は同時であると判断しやすいのですが,能動的に運動している時は,より同時に提示されたとき,人間は同時であると判断しやすいことがわかってきました.
○過去の研究○
実社会における身体運動の同期
私たちが他者とのコミュニケーションにおいて行う身体運動,例えば,会話やジェスチャー,うなずきなどは,たびたび同期していることが知られています.また,このような身体運動同期は,相手への好感度等に影響していることが明らかに合ってきています.
そこで,実社会において人々が対面している時にどのような身体運動同期が起こっているのかを明らかにしようと試みています.具体的には,7つの企業組織それぞれにおいて,数か月にわたり100名以上の対面記録と身体運動の活動度をライフログセンサを用いて計測しています.これにより,対面していない時に比べて対面している時では人々の身体活動の同期度が大きくなることを示してきました.