自律分散システムにおける大域的秩序形成の理論
(湯浅助教授)

本研究では,多数の分散した動的要素が協調しまとまった全体挙動を示す,すなわち大域的な秩序形成を創発的に実現するための原理に関する基礎的な研究を行っている.その適用範囲は,本研究室で具体的に行っている超並列動画像認識システムや,自律分散型多脚ロボットシステム,交通網における自律分散型信号制御システムなどが挙げられ,一見無関係に思われる程非常に広範囲にわたる.それは,本研究テーマが基礎的かつ原理的な研究であり,要素技術に依存しない,すなわち時代によらない普遍的な汎システム理論の構築を目指しているためである.

多数の動的要素から成る大規模なシステム(自律分散システム,マルチエージェントシステム)は,一般に状態空間が高次元となる.しかし,状態となる物理量の種類は,「位置と運動量」や「電圧と電流」といった具合に少なく,かつ一般に双対量となる.つまり大規模システムのほとんどは,同じ種類の物理量が異なった“場所”に存在するという性質のために状態空間が高次元となっている.この空間的広がり(位相構造)を表現する方法として,グラフ(ネットワーク)により空間位相および接続を表現し,そこで微分幾何学・解析力学と同様の理論展開を目指して理論的整備を行っている.

 この方法により,システム全体が協調した秩序パターンをグラフ上の関数で表現し,その秩序パターン(関数)が時間とともにどのように変化するかを関数空間で解析/設計することにより,協調するシステムの一般的議論が可能となる.ここでは,システム全体を評価するポテンシャル汎関数が存在し,その勾配の減少方向に変化する関数空間における勾配系を用いて解析を行った.ポテンシャル汎関数がある簡単だが一般性のあるクラスに属する時,その勾配系はグラフ位相上の(非線形)反応拡散方程式となる[文献1)参照]ことを理論的に明らかにした.

また動的要素を移動ロボットと見なし,変数の双対性に着目して,自律ロボットの知能に関する一般理論が構築できる[文献2)参照].この理論は,群ロボットシステムが協調動作を実現する基本原理となる(Fig.1参照).

文献1)湯浅秀男,伊藤正美:グラフ上の反応拡散方程式と自律分散システム,計測自動制御学会論文集, Vol.35, No.11, pp.1447-1453, 1999

文献2)湯浅秀男,新井民夫:移動ロボットにおける知能とセンサ—アクチュエータ系の双対性,第14回自律分散システムシンポジウム資料,pp.235-238, 2002

 

 

 

 

 

 

 


Fig. 1    Coordination of multi mobile robots